製品の一部が特許を侵害している場合の製品全体の差止

The iPad - His and Hers日本では、製品のある一つの機能が特許権を侵害している場合に製品全体の差止を請求したら、基本的に認められると考えられます。しかし、米国では事情が違います。

サムスン製品の販売差し止め請求棄却 米連邦地裁
「アップルの特許を侵害したのはサムスン製品の機能の一部。販売禁止までは必要ない」(ルーシー・コー判事)
日経新聞から引用)

日米でこのような違いがあるのは、イギリスやアメリカがコモン・ロー法系であるのに対して、日本は大陸法系であるからです。

コモン・ロー法系の国では、エクイティーの考えがあり、コモン・ロー(普通法)上の救済を基本として、エクイティ(衡平法)上の救済を適宜組み合わせる方法がとられます。

特許権侵害で言えば、損害賠償(金銭賠償)がコモン・ロー上の救済で、差止命令がエクイティ上の救済ということになります。英米法では、法的救済は金銭賠償が原則であり、金銭賠償では十分でない場合に裁判官の裁量で差止請求が認められるという法体系になっています。

アメリカのeBay事件最高裁判決では、差止めを認めるための基準として、以下の4要素を挙げています。

(1)差止めを認めなければ原告が取り返しのつかない損害を被ること
(2)法律上の救済措置(損害賠償)では原告の損害を救済するのに不適切であること
(3)原告と被告の被害バランスを考慮すると衡平法上の措置(差止め)が適切であると認められること
(4)差止めを認めても公共の利益を損なわないこと

一方、ドイツや日本のような大陸法の国では、権利の侵害があれば差止請求権が発生することを当然としており、特許権が侵害されると原則、常に差止請求が認められます(例外的に強制実施権が設定され、差止が制限される場合はありますが)。

以上のような法体系の違いがあるため、コモン・ローの国アメリカでは、特許侵害が製品の一部である場合には、差止請求を認めない場合があり、一方、大陸法の日本では、差止請求を制限する考え方はなじまないようです。