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本件発明とは解決課題が大きく隔たる引用発明を組み合わせて進歩性を否定することには慎重であるべき。
平成22年(行ケ)第10298号 審決取消請求事件 平成23年10月4日 知的財産高等裁判所
[判旨]
補正発明(補正後の本件発明)は「洗濯機での使用に適した伝動機構」、刊行物1発明は「洗濯兼脱水槽を備えたいわゆる一槽式脱水洗濯機」、刊行物2発明は「主として船舶に用いられる二重反転プロペラのための反転装置」に関するものである。
「軽量な衣類を洗濯するための動力伝達機構と,重量のある船舶を推進させるための動力伝達機構とでは,設計思想に大きな相違が存在することが技術上明らかであ」るが、特許庁は、技術分野の異なる刊行物1発明(主引例)と刊行物2発明(副引例)を組み合わせて、補正発明には進歩性がないとした。
刊行物2発明は,「主プロペラの回転により生じる反トルクを打ち消すために,主プロペラとは逆方向に回転する副プロペラを設けた」二重反転プロペラ機構に関するものであり、主に飛行機や船舶等で用いられる。「空中や水上を走行する飛行体や船舶は,地上に配置された物体や地上を走行する走行体と比較して姿勢が安定しないため,推進用の主プロペラを高速で回転させるほど,これとは逆方向に姿勢が傾く傾向が大きくなることから,副プロペラを設けて,これを主プロペラとは逆方向に回転させることによって,主プロペラの回転に起因した姿勢の傾きを抑制する必要がある」という理由からである。
「刊行物1発明は,衣類の洗浄力の向上を課題とした技術であるのに対して,刊行物2発明は,船舶等の姿勢の安定化を本来的な課題とした船舶等に固有の技術である点で,両者の解決課題は大きく隔たっている。」
「刊行物1発明の洗濯機の動力伝達機構と,刊行物2発明の船舶等の二重反転プロペラの動力伝達機構とは,技術分野が相違し,その設計思想も大きく異なることから,洗濯機の技術分野に関する当業者が,船舶の技術に精通しているとはいえず,洗濯機の動力伝達機構を開発・改良する際に,船舶等の分野における固有の技術である二重反転プロペラに類似の技術を求めることは,困難であるというべきである。また,洗濯機は,通常,床面上に設置して安定な状態で使用されるから,撹拌機や内槽の回転によって生じる反トルクの問題を考慮する必要がないことが一般的であると解される。」
「したがって,当業者が,洗濯機の分野では本来的に要求されない二重反転プロペラに関する刊行物2の記載事項を,刊行物1発明に適用することは困難であ」るとして、特許庁の拒絶審決には取り消されるべき理由があるとした。
特許庁は、「刊行物1発明と刊行物2発明とは,伝動機構である点で同じ技術分野に属するものであり,また,1つの駆動力入力を2つの駆動力出力へと変換する,動力を伝達するという共通した作用,機能を有すると主張」していたが、裁判所は「解決課題が大きく隔たっている公知技術を組み合わせるに当たって,両者が動力伝達機構という汎用性の高い一般的技術分野に属するとしてその容易性の有無を判断することは慎重でなければなら」ないとして、特許庁側の主張を退けている。
[解説]
本事件において、知財高裁(第二部塩月判事)は、「本件のように複数の発明を組み合わせて出願された発明の進歩性を否定しようとする場合には,それぞれの発明の技術分野,解決課題,組合せの動機付け等を具体的に検討しなければならない。刊行物1発明と刊行物2発明とは,前記のとおり,技術分野が異なるだけでなく,その解決課題も大きく隔たり,組合せの動機付けも明確でないから,被告の主張は採用することができない。」と述べている通り、技術分野が異なり、解決課題が大きく隔たっていたとしても、組合せの動機付けが明確にあるならば、刊行物2発明を刊行物1発明に組み合わせて本件発明は容易想到であるとする論理付けの余地も残している。発明の進歩性の判断は結局のところ、さまざまな要素を考慮に入れた総合判断によらなければならない。
弁理士 青木武司
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