米国発明法の署名式ーオバマ大統領はペンを何回交換したか?

11-42 AM Obama signs the America Invents Act into Law先願主義への移行を含むアメリカの特許法の大改正である米国発明法(America Invents Act)のオバマ大統領署名記念式典は2011年9月16日Thomas Jefferson High Schoolという高校で開かれました。 オバマ大統領はこの重要な法律に何回もペンを取り替えて自分の名前をサインします。これはどういう意味があるのでしょうか?そしてThomas Jefferson High Schoolはどういう学校なのでしょうか?

Thomas Jefferson High Schoolという高校で行われた米国発明法の大統領の署名式の模様です。トーマス・ジェファーソンはご存じの通り、1776年のアメリカ独立宣言の作者の一人ですが、彼自身、発明者でもあり、1787年の連邦憲法の規定を受けて制定される1790年の米国特許法の制定にも関わった人です。オバマ大統領は、今日私がThomas Jefferson High School for Science and Technologyを訪れたのはそのためだと話しています。

アメリカ合衆国は、建国当初から、憲法において発明者の権利を保護することを宣言しました。「発明」(技術思想)を保護するというよりは、「発明者」自身の権利を保護することを建国の礎としたのです(平塚三好准教授「第6回米国特許法の改正内容建国以来の大改正-AIA(Leahy-Smith America Invents Act)-」参照)。

米国以外の先願主義を採用する国では、発明者(多くの場合、会社の従業員)が「特許を受ける権利」を出願人(すなわち会社)に譲渡した後、特許証に名前が記載される程度の「名誉権」くらいしか発明者には残りません(日本の特許法では、職務発明を譲渡した場合の「対価請求権」という大きな権利が発明者にありますが)。先発明主義を採ってきた米国では、発明者でないと出願人になることでできませんでしたから、先願主義の国と、先発明主義の米国では「発明者」の保護という点では、雲泥の差があったのです。

ほとんどの国が「先願主義」を採用する中で、アメリカ合衆国だけが頑なに「先発明主義」をこれまで貫き通してきた背景には、二百三十年も前の「建国の精神」があったということができると思います。特許法の制定に関わったジェファーソン自身が発明者でもあったからです。

その米国が二百三十年を経て、先発明主義を捨てて先願主義に移行するのですから、大きな転換点であると言えます。しかしここに至るまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。詳しくは(ブログ記事「米国特許法改革ー先願主義に移行するまでの長い道のり」に譲ります)。

米国発明法(America Invents Act)の署名式が行われたトーマス・ジェファーソンの名前を冠するこの高校は、科学技術の教育に力を入れている有名校です。署名式の冒頭でいかにも賢そうなRebeccaという高校生が審査官を納得させて特許を取得した話とか、脳波で制御する車いすのプロジェクトをやっているとか、大学生も顔負けの秀才ぶりを発揮しています。トーマス・ジェファーソンが制定した特許法の改正法をこの高校で署名することに特別な意味合いを込めたかったのでしょう。米国特許商標庁の演出だと思いますが、すばらしい式典だと思います。

この署名式は、大統領の法案への署名で終わるのですが、オバマ大統領が何度もペンを取り替えてサインする不思議な光景に出会います。これは重要な法案の署名でしばしば行われることです。その理由はWhy Did Obama Use So Many Pens to Sign the Health Care Bill?に書かれています。

映像を見ると米国発明法(AIA)の署名では、オバマ大統領は、おそらく13本のペンを使用して少しずつ自分の名前をサインしています。大統領に紹介された壇上の出席者を数えると13人いましたので、その人たちへのプレゼントになるのでしょう。Rebeccaという生徒さんには一生の記念になるにちがいありません。

関連投稿:「米国特許法改革ー先願主義に移行するまでの長い道のり

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