『永遠の0』ー零戦の左捻り込みと「逆転洗濯機」の発明

「永遠の0」を観ました今年になって映画『永遠の0』を観ましたが、宮部久蔵(岡田准一)は、宮部をライバル視する熟練パイロットの景浦(新井浩文)との模擬空戦で、前から突如消えたと見せかけて、気が付いたら景浦の背後にぴたりとつけていたという、見事な旋回飛行を見せます。あれは「左ひねり込み」という技で、熟練パイロットが使う魔法の技だそうです。しかし、零戦に「左捻り込み」はあっても、「右捻り込み」はありません。

第二次大戦中の戦闘機の中でも屈指の運動能力を誇った零戦ですが、旋回能力は左右で違っていたのです。零戦は左旋回は得意ですが、右旋回能力には弱点がありました。一般にプロペラが高速に回転すると反作用により機体が逆方向に回転する力を受けて機体が傾きます。そこで、零戦は、わざと左右の揚力が不均衡になるように機体を左右非対称に設計していました。そのため、左旋回はできても右旋回はうまくできないのです。『永遠の0』をこれから鑑賞される方は、宮部の零戦の「左捻り込み」の技に注目してご覧になると面白いと思います。

このプロペラの回転により生じる反作用を打ち消すために、逆方向に回転する副プロペラを設けた「二重反転プロペラ機構」が後の戦闘機に採用されるようになりますが、第二次大戦当時はまだ試作レベルでした。

零戦からさらに話は飛びますが、洗濯機の脱水槽も、もの凄いスピードで回転しますから、その反動で洗濯機がひっくり返るのではないかと思ったことはないでしょうか。脱水槽と洗濯槽が別だった昔の「白い」洗濯機(当時、洗濯機と言えば白しかなかった)は、脱水すると洗濯機がガタガタと激しく振動して壊れるのではないかと思ったものです。あれが高速回転による「反作用」です。

内槽と攪拌器とが互いに反対方向に回転する機構を設けた中国発の洗濯機の発明(特表2005-505393号「逆転洗濯方法および伝動機」)が日本に出願されました。この発明が解決する課題は、回転による反作用を打ち消すことではなくて、双方向洗濯によって洗濯清浄度を高めることですが、構造的には、「二重反転プロペラ機構」に似ています。特許庁は「二重反転プロペラ機構」のアイデアを洗濯機に適用することは容易であるとして、発明の進歩性を否定して特許出願を拒絶する審決をしました。

この特許庁のした審決が知財高裁で争われました(平成22年(行ケ)第10298号 審決取消請求事件 平成23年10月4日 知的財産高等裁判所)。知財高裁は、逆転洗濯機と二重反転プロペラでは、技術分野が相違し、その設計思想も大きく異なり、解決課題も大きく隔たっていることから、洗濯機の動力伝達機構を改良する際、船舶等の二重反転プロペラの技術を適用することは困難であると判断しました。戦時中の戦闘機プロペラ技術をもってきてハイテク洗濯機の発明の進歩性を否定されたら発明者はたまったものではありません。

我が家の洗濯機の脱水槽が回転する様子を見ながら、零戦を旋回させながら敵艦に向かって降下して最期を遂げた宮部の姿を思い出していました。

なお、「逆転洗濯機」事件の判決については「 ぱっと見!判決」で専門的に解説しましたので、ご覧いただければと思います(逆転洗濯機と二重反転プロペラでは解決課題が大きく隔たる)。

aoki

 

プライムワークス国際特許事務所
弁理士 青木武司

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