米国特許出願の早期審査、優先審査、PPHについて相違点、メリット、デメリットをまとめました。また各制度の審査期間の統計情報を追加しました。「より迅速により確実に権利化するには?」を追加しました。
1.Accelerated Examination(「早期審査」)
メリット
- 早期審査の申請の庁費用は130ドルと安い。
- 出願後12か月以内に審査が終わり、特許査定か拒絶の最終処分が出る。
- Request for Continued Examination(RCE)(継続審査請求)しても早期審査の状態が継続する。
- 出願人が先行技術調査と反論を提出することから、オフィスアクションの回数が減り、審査にかかる費用が全体としては節約される可能性がある。
デメリット
- 独立クレーム3項、トータルで20項までの制約がある。
- 早期審査の申請書類としてPre-Examination Search Document(PESD)とAccelerated Examination Support Document(AESD)の提出が必要である。出願人は各クレームの特許性について先行技術調査を行い、サーチしたデータベースとサーチ方法をPESDにおいて特定し、先行技術文献をIDSとして提出しなければならない。さらに、AESDにおいて、クレームにもっとも近い文献を特定して、どの文献がどのクレームの特徴を教示しているか、各クレームが文献に対して特許性があるとする反論を示さなければならない。先行技術調査と反論に相当な労力と時間を要する(アトーニー費用が発生する)。また、審査官からインタビュー(最初のオフィスアクションの前のインタビューを含む)を求められた場合、出願人はインタビューに応じる必要があります(ACCELERATED EXAMINATION FAQs P. 16 IN1参照)。
- PESDとAESDで出願人が述べたことは審査経過禁反言を作る。特に先行技術との比較や本願発明の特許性に関して出願人が自認することのリスクが大きい。
- オフィスアクションの応答期間は1か月と短く、応答期間は延長不可(応答期間内に応答しなければ出願が放棄される)。
なお、国際出願の米国国内移行は、早期審査(accelerated examination)の対象にはなりません(ACCELERATED EXAMINATION FAQs P. 4 EC1参照)が、国際出願にもとづく米国継続出願(いわゆるバイパス出願)は、早期審査(accelerated examination)の対象になります(ACCELERATED EXAMINATION FAQs P. 4 EC2参照)。
2.Track 1 Prioritized Examination(「優先審査」)
メリット
- 早期審査のように審査経過禁反言のリスクがあるような書類(PESDとAESD)の提出が不要であり、優先審査を申請してもそれ自体には何ら審査経過禁反言の心配がない。
- 統計的に見た場合、早期審査、PPHと比べて審査が早い(下記統計参照)。
- 平均して12か月以内に特許査定か拒絶の最終処分が出されている(12か月はあくまでUSPTOの目標である)。
- オフィスアクションの応答期間は、通常通り3か月であり、応答期間の延長も可能であるが、応答期間を延長すると、優先審査から外される。
デメリット
- 独立クレーム4項、トータルで30項までの制約がある。
- 庁費用は4800ドル(および出願公開費用の前払い300ドル)ときわめて高い。
- オフィスアクションの応答期間を延長すると、優先審査から外される。
- Request for Continued Examination(RCE)(継続審査請求)をすると優先審査から外される。優先審査を続けるにはRCE後に再度4800ドルを支払う必要がある。
3.Patent Prosecution Highway(「特許審査ハイウェイ」)
メリット
- 特許審査ハイウェイの申請には庁費用はかからない。
- 日本の特許査定にもとづく特許審査ハイウェイの特許査定率は約90%である。
- 国際出願の国際段階成果物(サーチレポート)を利用した特許審査ハイウェイ(PCT-PPH)が利用できる。サーチレポートにより新規性、進歩性、および産業上の利用可能性があるとされたクレームに予備補正すれば特許審査ハイウェイが利用できる。
デメリット
- 他国で特許されたクレーム(PCT-PPHの場合は、国際出願のサーチレポートで新規性、進歩性、および産業上の利用可能性があるとされたクレーム)と実質的に同じクレームに予備補正しなければならない。
- 統計的に優先審査、早期審査と比べた場合、審査は遅い(下記統計参照)。
まとめ
以上より、4800ドルの費用負担を厭わないのであれば、優先審査が有利である。ただし、3か月以内にオフィスアクションに応答ができずに延長することになれば、優先審査から外され、かけた費用が無駄になることに注意が必要。
日本で特許査定が出された場合や、国際出願のサーチレポートが肯定的である場合は、特許審査ハイウェイの利用が有利である。
統計情報
早期審査、優先審査、PPHを利用した場合の有効出願日から特許査定までの日数の統計は以下の通りである。(2011年の出願データより。AIPLA Economic Survey of 2011を参考にした。)
有効出願日から特許査定までの日数 | 平均 | 中央値 | 標準偏差 |
優先審査(PE) | 184日 | 207日 | 101日 |
早期審査(AE) | 317日 | 248日 | 292日 |
特許審査ハイウェイ(PPH) | 565日 | 543日 | 215日 |
より迅速により確実に権利化するには?
迅速性 | 確実性 | |
優先審査(PE) | 最も速い | 優先審査請求時に出願人は先行技術調査を提出しないので、審査官の特許性判断に影響を与えられない。審査官は自ら調査と審査を行う。 |
早期審査(AE) | 出願人が先行技術調査を提出するため、比較的速い | 早期審査申請時に出願人は先行技術調査を提出するので、審査官の特許性判断に直接の影響を与えられるが、それは文献が英語の場合に限られるだろう。提出される先行技術調査やオフィスアクションが非英語である場合、審査官は自ら英語文献を調査して改めて審査を行う可能性が高い。 |
特許審査ハイウェイ(PPH) | 他の2つと比べると遅い | 許可されたクレームに最初から補正するため、特許査定率が高い(日本から米国への特許審査ハイウェイの特許査定率は90%)。(早期審査(AE)では特許査定率は50%以下である。) |
プライムワークス国際特許事務所 パートナー弁理士 青木武司
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