米国発明法の先公表先願主義

11-42 AM Obama signs the America Invents Act into Law2011年9月16日に米国特許法が改正された(ブログ記事「米国発明法の署名式ーオバマ大統領はペンを何回交換したか?」参照)。「米国発明法」(America Invents Act)(以下「AIA」と略す)により、米国は先発明主義から先願主義に移行した。だが、AIAの先願主義は、通常の先願主義とは違い、先公表先願主義(first to disclose first to file system)とでもいうものになっている。

AIAの先願主義は、他人が先に出願したとしても、先に公表した者の方が特許を受けることができるように制度設計されており、「先公表主義に先願者優先方式を組み込んだ仕組みにし、実態的には“準先発明主義”を維持し続けているように見えなくもない」(第6回米国特許法の改正内容建国以来の大改正 -AIA(Leahy-Smith America Invents Act)-から引用)。アメリカ合衆国の建国の精神でもある先発明主義をなんとか温存しようとした妥協の産物であるとも言えるであろう(米国特許弁護士服部健一氏の日米特許最前線第62回「オバマ大統領、新米国特許改革法をサイン―世紀の新米国特許法は先願主義ではない」参照)。

旧法(35 USC §102(b))は米国出願前1年以内の刊行物等を先行技術とみなさないというグレースピリオドを規定していたが、AIA §102(b)は、発明者等による「開示」(disclosure)をグレースピリオドの起算時点として明記している。その意味で、AIA102条(新規性、先行技術)は、「先公表先願主義」(first to disclose first to file)を規定していると言える。通常の「先願主義」ではなく、後に出願した者であっても先に開示した者であれば、新規性を喪失しない。発明者等の開示を要件とすることから、「発明者先願主義」(first inventor to file)と呼ばれることもあり、通常の「先願主義」(first to file)とはやや性質が異なるものとなっていることに注意が必要である。

AIA §102(a)は新規性の条項であり、§102(a)(1)は先行技術による新規性喪失、§102(a)(2)は先願による新規性喪失を規定する。

AIA §102(b)は新規性喪失の例外の条項であり、§102(b)(1)は先行技術の例外(1年間のグレースピリオド)、§102(b)(2)は先願の例外を規定する。

§102(a)(1) 先行技術による新規性喪失ー旧法の1年のグレースピリオドとの違い

旧法では、発明者Xのした発明aと同じ内容が他人Yの刊行物bによって開示されたとしても、発明者Xは、他人Yによる開示の時点から1年(グレースピリオド)以内に出願すれば、新規性を喪失しなかった(下図参照)。

発明者X:発明a  他人Y:刊行物b(発明aを開示)  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーーーーーーーーーーー+ーーーー>時間
             +ーーーーーーー(1年)ーーーーーーー+
旧法のグレースピリオド

しかし、AIAでは、この場合に新規性喪失の例外の適用がなく、旧法のようなグレースピリオドの恩恵は受けられないことに注意しなければならない。AIAでは、発明者または発明者から発明の主題を取得した他人が発明を開示した場合、その開示から1年以内に出願すれば、新規性喪失の例外が適用される(後述の§102(b)(1)(A) 先行技術の例外ー発明者等の開示による1年間のグレースピリオドを参照)。

§102(a)(2) 先願による新規性喪失ー先発明主義との違い

旧法では、先発明主義のもと、先に発明したXは、後に出願しても新規性を喪失しなかった。旧法では、インターフェアランスという手続きによって、発明者X(後願)が他人Y(先願)よりも先に発明したことを立証できれば、発明者X(出願人)に特許が付与される。これが、米国独特の先発明主義であった。

発明者X:発明a                     発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー>時間
         他人Y:発明aーーーーーー他人Y:出願B
旧法の先発明主義:先発明の後願Aは、後発明の先願Bで拒絶されない

しかし、AIAでは米国も「先願主義」に移行するので、同じ発明aを他人Yが先に出願(先願B)していたら、発明者Xの出願(後願A)は新規性を喪失する。これが、米国以外の国が取ってきた通常の先願主義であり、これからは米国も同じである。

発明者X:発明a                     発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー>時間
         他人Y:発明aーーーーーー他人Y:出願B
先願主義:先発明であっても後願Aは、後発明の先願Bで拒絶される

ただし、これは他人Yが発明者Xとは独立に同じ発明をした場合のことであり、他人Yが発明者Xから発明aの主題を取得して出願した場合は、新規性喪失の例外の適用がある(後述の§102(b)(2)(A)先願の例外ー発明者から情報取得してなされた他人の出願の排除を参照)。

§102(b)(1)(A) 先行技術の例外ー発明者等の開示による1年間のグレースピリオド

旧法では、発明者Xが自分の発明aを開示したか否かに関係なく、1年間のグレースピリオドの恩恵を受けることができた。前述のように、他人Yが同じ発明aを刊行物に開示したとしても、 その開示から1年以内に出願すれば、新規性を喪失しなかった(もちろん発明者Xが自ら発明aを開示した場合でも同様である)。

AIAでは、発明者Aが自ら発明aを開示した場合、または発明者から発明の主題を取得した他人が発明aを開示した場合に、その開示行為から起算して1年以内であれば、新規性喪失の例外が適用される。§102(b)(1)(A)は、「当該発明の発明者…によって、又は当該発明の発明者…から直接又は間接的に当該発明の主題を取得した他人により開示がなされた場合」と規定するからである。これをここでは「発明者等の開示による1年のグレースピリオド」と称する。

発明者による開示の場合

ケースA

発明者X:刊行物b(発明aを開示)  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーーーーーーーーーーーー+ーーーー>時間
    +ーーーーーーー(1年)ーーーーーーー+
発明者等の開示によるグレースピリオド:出願Aは刊行物bで拒絶されない

発明者から発明の主題を取得した他人による開示の場合

ケースB

  +ーーー入手ーーー+
  |        |
発明者X:発明a  他人Y:刊行物b(発明aを開示)  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーーーーーーーーーーー+ーーーー>
             +ーーーーーーー(1年)ーーーーーーー+
発明者等の開示によるグレースピリオド:出願Aは刊行物bで拒絶されない

発明者とは独立に同じ発明をした他人による開示の場合

しかし、AIAでは、他人Yが発明者Xとは独立に同じ発明aをして刊行物bに記載した場合、他人Yの開示行為に対しては1年以内に出願しても新規性喪失の例外の適用はない。旧法のグレースピリオドでは、他人の開示行為に対しても救済があった(前述)ことと比較されたい。

ケースC

発明者X:発明a  他人Y:刊行物b(発明aを開示)  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーーーーーーーーーーー+ーーーー>
             +ーーーーーーー(1年)ーーーーーーー+
出願Aは刊行物bで拒絶される

§102(b)(1)(B) 先行技術の例外ー発明者等の開示による1年間のグレースピリオド

ところが、ケースCの場合であっても、他人Yによる発明aの開示よりも前に、発明者X(または発明者から発明の主題を取得した他人)が発明aを公表(ここでは「開示」(disclosed)でなく、公表(publicly disclosed)という言葉が使われていることに留意)していれば、新規性喪失の例外の適用を受けられる。§102(b)(1)(B)は、「開示された主題が、…有効に出願される前に、当該発明の発明者、又は、当該発明の発明者…によって直接又は間接的に開示された当該主題を取得した…他の者により、公衆に開示されていた場合」と規定するからである。

ケースD

発明者X(*):公表a  他人Y:刊行物b(発明aを開示)  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーーーーーーーーーーー+ーーーー>
    +ーーーーーーーーーーー(1年)ーーーーーーーーーーーー+
(*)発明者Xから発明の主題を取得した他人であってもよい
発明者等の開示によるグレースピリオド:出願Aは刊行物bで拒絶されない 

§102(b)(2)(A) 先願の例外ー発明者から発明を取得した他人の出願の排除

AIAは、新規性喪失の例外として、先行技術の例外を定めるだけでなく、先願の例外も定めている。発明者Xから発明aの主題を取得した他人Yが発明者Xよりも先に出願した場合でも、他人Yの出願Bにより発明者Xの出願Aは拒絶されない。

ケースE

  +ーーー入手ーーー+
  |        |
発明者X:発明a  他人Y:出願B  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーー+ーーーー>
出願Aは他人の出願Bで拒絶されない

もちろん、他人Yが発明者Xとは独立に同じ発明aをして出願した場合は、先願主義のもと、出願Aは先願Bにより拒絶される。

ケースF

発明者X:発明a  他人Y:出願B  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーー+ーーーー>
出願Aは他人の出願Bで拒絶される

§102(b)(2)(B) 先願の例外ー発明者等の開示後の他人の出願を排除

ところが、ケースFの場合であっても、他人Yの出願Bよりも前に、発明者X(または発明者から発明の主題を取得した他人)が発明aを公表していれば、新規性喪失の例外の適用を受けられる。§102(b)(2)(B)は、「開示された主題が、…有効に出願される前に、当該発明の発明者、又は、当該発明の発明者…によって直接又は間接的に開示された当該主題を取得した共同発明者又は他の者により、公衆に開示されていた場合」と規定するからである。

ケースG

発明者X:公表a  他人Y:出願B  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーー+ーーーー>
    +ーーーーーーー(1年)ーーーーーーー+
後願Aは他人の先願Bで拒絶されない
※§102(b)(1)(A)の重複適用により、出願は公表から1年以内にしなければならない。

まとめ

このようにAIAの先願主義は、新規性喪失の例外の規定と相まって、たいへん複雑であるが、以上を次の2例に当てはめて再確認するとわかりやすい。

先公表後願の事例1(他人が同じ発明を独立して出願している場合)

発明者X:公表a  他人Y:開示b  他人Y:出願B  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーー+ーーーー>
    +ーーーーーーーーーーーー(1年)ーーーーーーーーーーー+
後願Aは他人の先願Bで拒絶されない

他人Yの開示bは発明者Xの出願Aに対する先行技術となるか?

発明者Xは他人Yの開示bよりも前に公表aをしているから、他人Yの開示bは、公表aから1年以内にした発明者Aの出願Xに対する先行技術とはならない。他人Yの開示bは§102(b)(1)(B)の「開示された主題が、その開示よりも前に、当該発明の発明者…によって、…公衆に開示されていた場合」に該当するからである。

他人Yの先願Bは発明者Xの後願Aに対する先行技術となるか?

他人Yの先願Bよりも前に発明者Xが公表aをしているから、他人Yの先願Bに記載された開示は、公表aから1年以内にした発明者Aの後願Xに対する先行技術とはならない。他人Yの先願Bは§102(b)(2)(B)の「(先願に)開示された主題が、…有効に出願される前に、当該発明の発明者…により、公衆に開示されていた場合」に該当するからである。(§102(b)(1)(A)が重複適用されるので、公表から出願までは1年以内にしなければならないことに留意する。)

先公表後願の事例2(他人が発明者から発明の主題を取得して出願している場合)

  +ーーー入手ーーー+
  |        |
発明者X:発明a  他人Y:開示b  他人Y:出願B  発明者X:出願A
ーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーー+ーーーーーーーーー+ーーーー>
             +ーーーーーーー(1年)ーーーーーーー+
後願Aは他人の先願Bで拒絶されない

先の事例と違うのは、他人Yが発明者Xから発明の主題を取得して開示し、出願している点、発明者Xによる発明aの公表はない点である。この場合は、発明者Xの自らの公表がなくても、発明者Xの出願Aは新規性喪失の例外の適用を受けられる。以下、条文に沿って考えてみよう。

他人Yの開示bは発明者Xの出願Aに対する先行技術となるか?

他人Yは発明者Xから発明aの主題を取得して開示bをしているから、他人Yの開示bは、開示bから1年以内にした発明者Aの出願Xに対する先行技術とはならない。他人Yの開示bは§102(b)(1)(A)の「当該発明の発明者…から直接又は間接的に当該発明の主題を取得した他人により開示がなされた場合」に該当するからである。

他人Yの先願Bは発明者Xの後願Aに対する先行技術となるか?

他人Yは発明者Xから発明aの主題を取得して出願Bをしているから、他人Yの先願Bは、発明者Aの出願Xに対する先行技術とはならない。他人Yの先願Bは§102(b)(2)(A)の「(先願に)開示された主題が、当該発明の発明者…から直接又は間接的に取得されたものであった場合」に該当するからである。

なお、AIAの先公表先願主義に関する条文は2013年3月16日以降の出願から適用される。

AIA102条の訳文および原文

※訳文はオーシャリャン特許法律事務所(Osha Liang LLP)によるAIA重要条文の日本語訳から引用させていただきました。

第102条 特許要件;新規性

(a)新規性:先行技術 次に該当する場合を除き、何人も特許を受ける権原を有する。

(1)クレームに記載された発明(クレーム発明)が、当該クレーム発明の有効な出願日より前に、特許として発行され、出版物に記載され、公衆に用いられ、販売され、又は公衆に利用可能となった場合、又は、

(2)当該クレーム発明が、第151条(特許の発行)に基づいて発行された特許、若しくは、第122条(b)項に基づき公開されたか或いは公開されたものとみなされた特許出願であって、当該クレーム発明の有効な出願日より前に、他の発明者による発明として、有効に出願された特許又は特許出願に記載された場合。

(b)例外

(1)クレーム発明の有効な出願日より1年以内になされた開示:クレーム発明の有効な出願日より前で、1年以内になされた開示であって、以下の各項目((A),(B))に該当する開示は、本条(a)項(1)号に規定された「クレーム発明に対する先行技術」には該当しない。

(A)当該発明の発明者若しくは共同発明者によって、又は当該発明の発明者若しくは共同発明者から直接又は間接的に当該発明の主題を取得した他人により開示がなされた場合;又は、

(B)開示された主題が、その開示よりも前に、当該発明の発明者若しくは共同発明者によって、又は当該発明の発明者若しくは共同発明者から直接又は間接的に当該発明の主題を取得した他人によって公衆に開示されていた場合。

(2)出願及び特許に記載された開示:以下の各項目((A),(B),(C))に該当する開示は、本条(a)項(2)号に規定された「クレーム発明に対する先行技術」に該当しない。

(A)開示された主題が、当該発明の発明者若しくは共同発明者から直接又は間接的に取得されたものであった場合、

(B)開示された主題が、(a)項(2)号に該当し有効に出願される前に、当該発明の発明者、又は、当該発明の発明者若しくは共同発明者によって直接又は間接的に開示された当該主題を取得した共同発明者又は他の者により、公衆に開示されていた場合、又は

(C)開示された主題及びクレーム発明が、当該クレーム発明の有効な出願日以前に、同一人に保有されていたか、或いは同一人への譲渡義務の対象であった場合。

(c)(略)

(d)(略)

§102 Conditions for patentability; novelty

(a) NOVELTY; PRIOR ART.―A person shall be entitled to a patent unless―

(1) the claimed invention was patented, described in a printed publication, or in public use, on sale, or otherwise available to the public before the effective filing date of the claimed invention; or

(2) the claimed invention was described in a patent issued under section 151, or in an application for patent published or deemed published under section 122(b), in which the patent or application, as the case may be, names another inventor and was effectively filed before the effective filing date of the claimed invention.

(b) EXCEPTIONS.―

(1) DISCLOSURES MADE 1 YEAR OR LESS BEFORE THE EFFECTIVE FILING DATE OF THE CLAIMED INVENTION.―A disclosure made 1 year or less before the effective filing date of a claimed invention shall not be prior art to the claimed invention under subsection (a)(1) if―

(A) the disclosure was made by the inventor or joint inventor or by another who obtained the subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a joint inventor; or

(B) the subject matter disclosed had, before such disclosure, been publicly disclosed by the inventor or a joint inventor or another who obtained the subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a joint inventor.

(2) DISCLOSURES APPEARING IN APPLICATIONS AND PATENTS.―A disclosure shall not be prior art to a claimed invention under subsection (a)(2) if―

(A) the subject matter disclosed was obtained directly or indirectly from the inventor or a joint inventor;

(B) the subject matter disclosed had, before such subject matter was effectively filed under subsection (a)(2), been publicly disclosed by the inventor or a joint inventor or another who obtained the subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a joint inventor;

or

(C) the subject matter disclosed and the claimed invention, not later than the effective filing date of the claimed invention, were owned by the same person or subject to an obligation of assignment to the same person.

(c) [omitted]

(d) [omitted]