先の記事、判決だけではわかりにくいと思いますので、解説します。
請求項の発明特定事項を限定する趣旨で補正をしても、実質的に増項補正になる場合は、「限定的減縮」に該当しなくなるのはどういうわけかという点ですが、以下のようなロジックになっているようです。
17条の2第4項は、1号「請求項の削除」、2号「限定的減縮」ですが、1号と2号は補正が認められる場合を独立に列挙したものではなく、1号は量的な面(請求項の数)に着目し、2号は内容的な面に着目し、補正が許容される範囲を定めたものであるから、1号と2号の間には相補的な関係がある。1号を2号に取り込んで2号を解釈するのが立法の趣旨であるということのようです。
つまり、請求項の発明特定事項を限定する趣旨であっても、請求項の数が補正前と比べて実質的に増加するような補正は、2号(+1号)の想定外だということです。
出願人側は、「請求項の数の増減にかかわらず,補正後の特許請求項の範囲により特定される発明が全体として補正前の特許請求の範囲により特定される発明に対して減縮されていればよいと解釈することが合理的である。」と主張していますが、いずれの判決でも認められていません。
それから、2号のかっこ書きの「補正前の当該請求項」という文言がけっこう効いています。発明特定事項を複数の請求項に展開させる(Bをb1、b2、およびb3にそれぞれ限定して請求項を立てる)と、1対1に対応せず、「補正前の当該請求項」が存在しないから、2号のかっこ書きに該当しないとされています。(「1対多」ではだめということ。)
「一対一又はこれに準ずるような対応関係」がない限り,限定的減縮には該当しないということですが、「これに準ずるような対応関係」の例として判例や審査基準に挙げられているのは、
1)補正前の多数項引用形式の請求項を補正によって独立形式とした場合(マルチをばらした場合)
2)補正前の請求項に択一的に記載された構成要件を限定して複数の請求項とした場合(いわゆるマーカッシュ形式をばらした場合)
の2つで、単に形式的に請求項が増えたに過ぎない場合(補正前の特許請求の範囲と比べて実質的に同一か減っている場合)だけです。(それ以外の例があるかどうか不明です。)