米国の商標法(15 United States Code §1052-§1127)

a) 沿革

ランハム法は、連邦制定法の中で商標の保護に関して最も重要であり、1946年に制定された。もともと米国では、商標の保護は不正競争の防止を目的とする各州のコモンロー(判例法)によって図られてきた。しかし、取引が州堺を越え、さらには国際間に発展する実情を受け、商標に関する連邦法が制定されるに至った。

b) 法体系

特許制度に比べ、米国商標制度はわかりづらい。まず、各州に蓄積されたコモンローがある。つぎに各州の制定法があり、さらに連邦制定法としてのランハム法がある。

① コモンロー・・・商標を使用した者は、まずその使用をした州において、コモンローによる保護を受ける。
② 州の制定法・・・つぎに、使用によって発生した権利(実体的な商標権)が、各州で定める制定法によって保護される。例えば、州によっては商標登録制度がある。
③ 連邦制定法・・・さらに、商標が複数州にまたがり、または国際的に使用される場合、連邦商標登録による保護を受けることができる。

これら三者で解釈上の矛盾がある場合は、③、②、①の順に優先される。しかし、制定法の解釈はしばしばコモンローに基づいて行われるため、裁判所の判断は日本にもまして重要な意味をもっている。この点に十分な注意が必要である。

c) 保護対象

米国では、自己の商品やサービスを他人のそれらと識別可能なものであれば、きわめて広範なものが登録される。日本の商標法で「商標」と認められるものに留まらず、音や匂いの登録例もある。例えば、フルメリアという花の香りは、糸の商標として登録されている。「商標」を柔軟に捉えないと、思いも寄らぬ侵害警告を受けることがある。

商標以外に、「トレードドレス」(商品やその包装の全体的な印象、デザイン、外観)が保護される。Two Pesos vs Taco Cabana 事件(1992年最高裁判決)では、レストランの内装や外観の類似を巡って争われ、原告の主張を認めている。

「トレードネーム」(日本で商号に当たるもの)は、個人の財産権と認識され、連邦登録の対象にはならない。しかし、財産権の侵害として連邦裁判所に救済を求めることができる。また、トレードネームの登録を認める州もある。米国で事業展開する場合、商標に関しては、とりわけ州制定法の確認が必要である。

d) 使用主義

使用主義は米国商標制度の大きな特徴である。沿革からわかるとおり、もともと商標はコモンローによって保護されてきたので、ランハム法の導入に当たっても、「商標に関する権利は最先に商標を使用した者に与えられる」原則が維持されている。したがって、先願主義(出願が早いほうが登録による保護を受ける、日本その他多くの国が採用する主義)の感覚とは別世界である。

米国では、商標を最先に使用していれば、原理上はそれで保護がなされる。商標が登録されることと(使用によって)商標権を得ることは別物である。しかし、それでも、重要な商標は連邦商標登録を受けることが望ましい。登録を受ければ、商標権の有効性が推定され、全米にわたって自己の商標が先行商標であることを通知したとみなされ、仮にその商標を特定の州だけで使用していても、その商標登録出願日において全米にわたってその商標を使用したものとみなされる。さらに、税関による侵害品の差止を請求できるようになる。

なお、米国以外で採用される登録主義(商標は登録を受けて商標権が発生するという主義)との整合性を高めるために、一部、登録主義的な規定がある。1988年のランハム法改正により、従来の「使用に基づく出願」だけでなく、「使用の意図に基づく出願」(intent to use application)が可能になった。出願に当たっては、使用の意図や他人による使用がないことを陳述する。特許商標庁が登録可能と判断すれば、出願人に登録許可通知を発行する。出願人は6ヶ月以内(場合によりトータルで3年まで延長可能)に使用陳述書と商標見本を出し、最終的に正式な登録を受けることができる。

さらに、日本企業が商標登録を受ける場合、いわゆるパリ条約による優先権制度を用いた出願をすることができる。米国は使用主義とはいっても、パリ条約6条の5では、本国(日本)で登録を受けた商標はそのまま第二国(米国)でも保護することが義務づけられているため、米国における使用事実は問われずに登録を受けることができる。同様に、マドリッドプロトコルによる米国への出願も可能である。ただし、いずれの場合も、登録に当たって使用事実が問われないだけで、実際に使用をしていないと実体的な商標権は発生せず、侵害救済が受け難い点に注意が必要である。米国では、ストック商標(使わないが登録だけ受けておく商標)の意味が薄いことに留意すべきである。

e) その他の特徴

① 日本にはないコンセント制度がある。米国では、先行登録商標と後に出願された商標登録出願が混同を生ずると判断されそうなとき、混同を生ずるおそれが存在しない理由や公衆の混同を回避するための両当事者間の取り決め等を記載したコンセント(同意書)を提出することができる。コンセントが提出されると、特許商標庁は十分な理由なく出願を拒絶することはできない。
② インターネットの利用により、コモンロー上の権利の確立が容易になっている。ウェブサイトで特定の商品やサービスを宣伝し、受注もしているような場合、全米にわたるコモンローによる保護を受けることができる。また、連邦商標登録の基礎(すなわち使用の事実)とすることもできる。
③ 商標権の侵害とされる範囲が一般に日本より広い点に留意する。単に類似の商標を類似の商品・サービスについて使用する場合に留まらず、商標権者と提携関係があるように見せかけたり、著名な商標をまったく違う商品につけて希釈化(dilution)を図ったり、著名商標をハロディー的に用いて「汚す」行為も侵害行為とされる。

コメントを残す