米国特許法102条(e)後願排除効の基準日

米国特許法102条(e)後願排除効はいわゆるヒルマードクトリンが働くため、適用することが複雑な条文です。米国の審査官もときどき間違えますので注意が必要です。

102条(e)の引用適格

102条(e)にもとづいて、先願後公開の他人の出願が本願を排除するかどうかは、先願後公開の他人の出願の102条(e)の基準日(effective date)と、本願の発明日(発明日の立証をしない場合は、本願の優先日(実際の米国出願日ではなく、パリ優先の優先日))の先後を判断して決める。

先願後公開の他人の出願(引例)の基準日が、本願の発明日(優先日)より後である場合、引例には102条(e)の引用適格性がないので、その旨、反論するだけでよい。(もっとも、102条(e)の引用適格性がなくても、102条(a),(b)の引例になることはあります。)

先願後公開の他人の出願(引例)の基準日は、現実の米国出願日(パリ優先の場合でも優先日ではない)ですが、引例が国際出願、国際出願を国内移行した米国出願、国際出願にもとづく米国継続出願(いわゆる「バイパス継続出願」)の場合は、基準日の判断が非常に複雑になります。審査官もよく間違うので、以下のように場合分けして基準日を割り出してください。(国際出願が米国の仮出願の優先権を引いているなど、これよりももっと複雑なケースは別途、考える必要があります。)詳しくは、MPEP 706.02(f)(1) Examination Guidelines for Applying References Under 35 U.S.C. 102(e)を参照してください。

なお、引例となりうるのは、国際公開公報と米国出願公報であり、それぞれについて後願排除効があるか、ある場合はその基準日がいつかをまとめます。(米国の場合、英語PCTを国内移行した場合でも国内公開がありますし、またバイパス継続出願した場合は、当然に国内公開があるので、国際公開公報と米国出願公報のどちらも考える必要があります。)

まず、2000年11月29日以降の国際出願かどうかで大きく分かれます。1999年11月29日に102条(e)が改正されたことによります。2000年11月29日より前の国際出願であれば改正前の102条(e)が適用されます。これをpre-AIPA 35 USC 102(e)と言い、改正前の法律を適用するときはオフィスアクションにそのように書いてあります。

2000年11月29日以降(その日を含む)に出願された国際出願の場合

国際出願が英語で公開され、国際出願を米国に国内移行した場合

  • 国際公開公報:後願排除効があり、その基準日は国際出願日
  • 米国出願公報:後願排除効があり、その基準日は国際出願日

国際出願が英語で公開され、国際出願にもとづいて米国に継続出願(バイパス)した場合

  • 国際公開公報:後願排除効があり、その基準日は国際出願日
  • 米国出願公報:後願排除効があり、その基準日は国際出願日

国際出願が非英語で公開され、国際出願を米国に国内移行した場合

  • 国際公開公報:後願排除効なし
  • 米国出願公報:後願排除効なし(注1)

(注1)昔は、非英語PCTを米国に国内移行すると、移行した日に後願排除効があるのではないかと言われていましたが、判例か特許庁の法律の解釈(102条(e)の但し書きの逆解釈)のどちらかで否定されたはずです。

国際出願が非英語で公開され、国際出願にもとづいて米国に継続出願(バイパス)した場合

  • 国際公開公報:後願排除効なし
  • 米国出願公報:後願排除効があるが、その基準日は現実の米国出願日になる

2000年11月29日以前(その日は含まない)に出願された国際出願の場合

国際出願(国際公開の言語を問わない)を米国に国内移行した場合

  • 国際公開公報:後願排除効なし
  • 米国出願公報:後願排除効なし

国際出願(国際公開の言語を問わない)にもとづいて米国に継続出願(バイパス)した場合

  • 国際公開公報:後願排除効なし
  • 米国出願公報:後願排除効があるが、その基準日は国際出願日になる

補足

102条(e)の法律解釈、審査基準は変遷しています。詳しくは、
米国出願ルートの実務的考察-米特許法102 条(e)の改正について-
を参考にしてください。このページは最新のMPEPに基づきます。現在の審査基準が正しいかどうかは判例を待つしかありません。

なお、非英語PCTを特別扱いする、現行の「外国人排除」とも言える法律は、現在議会で審議中の米国特許法の大改正では改められるらしいです。

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