周知技術の濫用への戒め!?

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容易想到性を肯認する際、審査/審判手続で挙げられていない文献を周知技術として挙示し、かつ、引用例として用いることは違法である。

平成18年(行ケ)第10281号 審決取消請求事件 平成19年04月26日 知的財産高等裁判所
[判旨]
審決が認定した「…」は,たとえ周知技術であると認められるとしても,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する推論過程において参酌される技術ではなく,容易想到性を肯認する判断の引用例として用いているのであるから,刊行物等に記載された事項として拒絶理由において挙示されるべきであったものである。
しかも,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成は,本願発明の出願時から一貫して最も重要な構成の一つとされてきたのであり,出願人である原告が,審査及び審判で慎重な審理判断を求めたものであるのに,審決は,この構成についての容易想到性を肯認するについて,審査及び審判手続で挙示されたことのない特定の技術事項を周知技術として摘示し,かつ,これを引用例として用いたものであるから,審判手続には,審決の結論に明らかに影響のある違法があるものと断じざるを得ない。

[解説]
拒絶査定不服審判において、審査で引用されていない文献を「周知技術」として認定した上で、出願人に意見書を提出する機会を与えることなく、拒絶審決が出された。原告(出願人)は、拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由について、意見書を提出する機会が与えられなかったから、審判手続には、特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する瑕疵があるとして審決の取り消しを求めた。

拒絶理由通知に引例として挙げることなく、「周知技術」を後出しして、拒絶査定/拒絶審決になることは、出願人にとって酷です。本当に周知技術ならば、納得しますが、周知性について争いたい場合もあるだろうし、当該特定事項だけを取り出せば周知技術であったとしても、クレーム全体としては進歩性が認められることもあります。このような場合、新たな拒絶理由通知をすることなく、拒絶査定/拒絶審決にすると出願人には不意打ちになります。

今回の知財高裁の判決は、出願人のこのような不利な立場を理解したものであり、勇気づけられます。understandとは、「下に立つ」ということであり、弱者の立場に立って物事を判断することの大切さを教えられます。

判示内容によれば、

(1)審査官/審判官が、周知技術とされる技術を、容易想到性を肯認する推論過程において参酌される技術ではなく、容易想到性を肯認する判断の引用例として用いており、さらには、
(2)周知技術とされているところの、本件発明と引用発明を対比した場合の相違点の構成は、本願発明の出願時から一貫して最も重要な構成の一つとされてきたのであれば、

その周知技術を、刊行物等に記載された事項として拒絶理由において挙示しなかった(不意打ちをやった)ことの違法性を問うことができると言えます。(条件(1)だけでもOKですが、条件(2)が揃えばなおよいです。)

「「…」との技術は,審決で認定したように周知技術であるとしても,審決は,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する判断過程において参酌するような周知技術として用いているのではなく,むしろ,審決の説示に照らすならば,実質的には,上記周知技術を容易想到性を肯認する判断の核心的な引用例として用いているといわざるを得ない。」

「本件補正発明1が引用例1に記載された発明と相違する「…」という構成は,本願の当初明細書においても,また,その後に提出された補正書等においても,出願人である原告が一貫して強調してきた最も重要な構成の一つであり,かつ,上記の本件審査及び審判手続においても明らかなように原告が強い関心を示して審査及び審判で慎重な審理判断を求めた構成であることが優に認められるところである。他方,本件審査及び審判手続では,審査官及び審判官が,この構成が進歩性を有するか否かに対し必要な関心と思慮をもって審理し,判断したかについては,既に検討したように,遺憾ながらその痕跡を窺い知ることは困難である。」

とまで裁判官が言ってくれているのを読むと、出願人にとっては本当に胸がすく思いですよね。

なお、周知技術を容易想到性を肯認する推論過程において「参酌する」のは許されますので、くれぐれも誤解なきようお願いします。その周知技術を容易想到性を肯認する判断の核心的な「引用例」として用いるのであれば、拒絶理由において引例として示さなければならないというのが今回の判決です。

プライムワークス国際特許事務所 パートナー弁理士 青木武司

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