置換することは容易か?-当業者の技術認識に焦点

[カンケツハンケツ®]
引用発明と周知技術の組み合わせは、その周知技術のもつ技術的意味が没却されるような適用の仕方であれば、動機付けがなく、阻害要因がある。

平成19(行ケ)10148 審決取消請求事件
[判決]進歩性がないことを理由に無効とした審決を取り消す
[主な理由]本件発明と引用発明の相違点の判断に誤りがある
[判旨]
出願当時の当業者において,マット加工面に熱と圧力を同時に加えるとマット加工の技術的意味が没却されると考えられていたことに照らすと,熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を解決するため,引用発明に,周知例に記載されたマット加工技術を適用することについては,その動機付けがないばかりか,その適用を阻害する要因が存在したものというべきである。

[解説]
本件発明は,「熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題」を解決するため,2枚以上のOPPフィルムを積層したラミネートフィルムにおいて,そのうち1枚のOPPフィルムの少なくとも一方の表面にマット加工を施すことを採用した。

一方、引用発明も,「熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題」を解決するため,2枚以上のOPPフィルムを積層したラミネートフィルムにおいて,そのうち1枚のOPPフィルムの少なくとも一方の表面に離型性ワックスをコートする加工を施すことを採用した。

同一の技術課題に対して、本件発明は「マット加工を施す」のに対して、引用発明は「離型性ワックスをコートする加工を施す」点が相違しますが、特許庁は「マット加工」に関する周知例を挙げて、引用発明の「離型性ワックスコート加工」を「マット加工」に置換することは容易に想到できる、そして、置き換えることにより奏する効果も当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではないという審決を出していました。

しかし、周知例の「マット加工」は、静電気の蓄積に起因するフィルムどうしの密着を低減するための技術だったようで、「熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題」を解決するために「マット加工」を用いることは、自明のことではなかったようです。技術課題や解決方法に十分な理解を欠いたまま、周知技術による置き換えは容易と片付けられてしまっていたようです。

知財高裁の判断は、以下のようなもので、特許権者の立場を考えると、たいへん勇気づけられます。

「本件特許出願当時の当業者において,少なくとも,マット加工面は,熱と圧力が同時に加わることによってマット加工が消失する可能性が高いものと考えられていたものと認めることができ」、「本件特許出願当時の当業者において,マット加工面に熱と圧力を同時に加えると上記のようにマット加工の技術的意味が没却されると考えられていたことに照らすと,熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を解決するため,引用発明に,周知例2又は3に記載されたマット加工技術を適用することについては,その動機付けがないばかりか,その適用を阻害する要因が存在したものというべきである。」

プライムワークス国際特許事務所 パートナー弁理士 青木武司

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