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商標の使用態様によって他人の特許権等を侵害しても、直ちに公序良俗に反する商標には該当しない。
平成19年(行ケ)第10303号 審決取消請求事件 平成20年1月31日 知的財産高等裁判所
[判旨]
原告は、審決には、本件商標の商標法4条1項7号該当性等の判断の誤りがあることなどを取消事由として主張している。
商標が商標法4条1項7号に該当するかどうかは、特段の事情のない限り、当該商標の構成を基礎として判断されるべきものであり、指定商品または指定役務についての当該商標の使用態様が他人の権利を侵害するか否かを含めて判断されるべきものではない。
本件においてこれをみると、本件商標は「iモード」を標準文字で表す構成からなる典型的な文字商標であって、本件商標の構成・内容から他人の特許権等を侵害するものということはできない。そうすると、原告の主張に係る本件商標の使用が原告の有する本件各特許権に抵触するという理由をもって、本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するということはできず、この点の原告の主張は失当である。
[解説]
原告は、発明の名称を「数字のみを用いて総ての文字・記号を入力することが可能な入力装置とそれを用いたフィルム描写装置」とする特許(特許第3611580号)及びこれに関連する米国特許(米国特許第6,097,990号)についての特許権を有している。
これに対し、被告が有する登録商標『iモード』(登録第4602351号)は「移動体電話による通信,電子計算機端末による通信,電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」を指定役務としており、原告は、本件商標『iモード』の文字を付した携帯電話の構成要素及び実施形態が原告の特許権を侵害するとして主張した。
商標法4条1項7号は、いわゆる公序良俗に反する商標の登録を排除する規定であるが、ここでいう公序良俗に反する商標とは、“他の法律によって、その使用等が禁止されている商標”、“一般に国際信義に反する商標”、“構成自体に問題がなくても、指定商品について使用することが社会公共の利益や一般的道徳観念に反することとなる商標”なども含まれる。
つまり、原告は、被告登録商標の構成要素は『iモード』の文字のみではなく、移動体電話からインターネットに接続して操作ができることをも含めて構成として認定すべき旨を主張し、同時に当該登録が4条1項7号に該当するとして、無効審判を争ったわけです。
「商標とは、「文字・図形・記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合またはこれらと色彩との結合」(商標法2条1項柱書)であって、その使用態様を含めて商標の構成要素ないし内容を判断すべきでない事は規定上明らかである。」
知財高裁は、改めて商標の定義を確認し、原告の主張する本件商標の構成要素の認定にかかる主張を退けました。
「商標法29条において、(中略)、知的財産権相互の調整が図られていること等に照らすならば、指定商品又は指定役務についての商標の使用態様によって他人の特許権等を侵害することがあったとしても、(中略)、そのことから直ちに当該商標が、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものと判断すべきではないといえる。」
このように、知的財産法の構造の観点からも商標法4条1項7号の解釈が示された点で、興味深い判決でした。
弁理士 安田 麻衣子