ibooksはインターネット電子書籍サービスの記述的商標でしかない

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Apple Inc.の商標iBooksの使用はJ. T. Colby & Company, Inc.らが使用する未登録商標「ibooks」に抵触するとしてApple Inc.が訴えられた商標権侵害事件は、米国ニューヨーク州南部連邦地裁の2013年5月8日の略式判決によりColby側が敗訴しています(J.T. Colby & Company, Inc. et al v. Apple, Inc.(S.D.N.Y. May 8, 2013))。しかし、これは電子書籍サービスにibooksという表記ができなくなることを意味しません。

原告Colby & Co., Inc.ら は、紙の書籍と電子書籍の両方にibooksという標章を使用していましたが、商標登録はしていませんでした(商標登録を試みたが米国特許商標庁に拒絶された経緯があるようです)。

原告らは、被告Apple Inc.が電子ブックリーダーソフトウェアに標章「iBook」を使用することは、原告の未登録商標「ibooks」に係る権利を侵害すると主張しました。日本では、商標登録することが商標権の効力発生要件です(「登録主義」)が、米国は「使用主義」を採用しており、商標権は商標の使用によって発生します。そのため本事件のような原告の未登録商標「ibooks」であっても商標権を主張することができます。

しかしながら、識別力(自他商品識別性)のない商標は保護されません。米国では、識別力の順に商標を(1) 普通名称(generic term)、(2) 記述的商標(descriptive mark)、(3) 暗示的商標(suggestive mark)、(4) 恣意的または創造的商標(arbitrary or fanciful mark)に分類しています(後になるほど識別力がある)。暗示的商標、恣意的または創造的商標は固有の識別力があることから、商標として保護されます。記述的商標は長期間使用された結果、「使用による識別性」(米国では、secondary meaningと呼ばれています)を獲得したことが立証されなければ、商標として保護されません。普通名称はそもそも識別力がなく、商標として保護されることはありません。

たとえば、商品「本」に付した標章「book」は「普通名称」であり、識別力がなく保護されません。商品「本」に付した標章「electronic book」(電子書籍)は、商品の性質を記述したものであり、「記述的商標」です。

ibooks

原告らが使用していた未登録商標は「ibooks」という文字列の上に電球の図形(電球の中には「i」の文字がある)を組み合わせた結合標章でした。しかし、原告らは「ibooks」という文字列に識別性があると主張し、「ibooks」は、需要者に「アイデアのある本」を想起させる「暗示的商標」(suggestive mark)であると主張しました。原告らは、暗示的商標であれば(記述的商標ではないため)、使用による識別性(secondary meaning)を立証する必要はないとも主張しました。

確かに、電球は、「アイデア」や「ひらめき」を意味するマークとして使われますので、電球の図形を組み合わせた「ibooksのロゴ」には識別力がありそうです。地裁も、記述的な文字列が識別力のある図形と組み合わさった標識は、全体として、識別力をもちうることを認めています。しかし、原告らは、電球の図形を組み合わせたibooksのロゴに対する保護を求めたのではなく、Apple Inc.が電子書籍リーダーに「ibooks」という単語を使用することに対して権利を主張していたのです。

そのため、地裁は、電球の図形が有する識別性は考慮に入れず、単語「ibooks」における「i」の文字は「インターネット」を表すものとして需要者に認識されることから、原告の「ibooks」は「インターネットで販売される書籍」を意味する記述的商標に過ぎないとして原告の主張を退けました。

In this case, the plaintiffs have presented no evidence that the ibooks mark conveys anything to consumers other than “books available for sale on the Internet.” In other words, the plaintiffs have not presented evidence to support a finding that the mark ibooks is anything other than a descriptive mark.

また、「ibooks」が「記述的商標」であるとすれば、商標として保護されるためには、「使用による識別性」(secondary meaning)を立証することが原告に求められます。すなわち、需要者が標章「ibooks」を見れば、それが原告の商品であると認識できるほどの識別性を獲得していることが必要です。

To determine whether secondary meaning exists, a court considers whether the primary significance of the mark to the consuming public is to “identify the source of the product
rather than the product itself.”

しかし、原告は、「ibooks」が「使用による識別性」を獲得したことを十分な証拠を挙げて立証することはできなかったようです。

Drawing all inferences in the plaintiffs’ favor, no reasonable jury could conclude that, as of 2010 when Apple announced its e-reader software, a substantial segment of ordinary consumers in the plaintiffs’ market associated the mark “ibooks” with a single source.

結局、原告の文字標章「ibooks」は記述的商標であり、使用による識別性を有しないことから、商標として保護されませんでした。

一方、Apple Inc.は、「インタラクティブでユーザが編集可能な電子ブックを支援および生成するためのコンピュータハードウェアおよびソフトウェア」に関する登録商標「IBOOK」をFamily Systems Ltd.から譲受しています。この判決によると、文字標章「ibooks」は記述的商標であるとされており、ibooksという文字列を、電子書籍の性質を記述的に説明するために用いる限りは、Apple Inc.の登録商標「IBOOK」の侵害を構成することはないと言えます。

なお、原告は地裁判決を不服として控訴しているようですから、今後の控訴審の判決にもご留意ください(控訴審判決が出れば、追って紹介いたします)。

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プライムワークス国際特許事務所
弁理士 青木武司

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