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農作物の品種名を表示する商標は、指定商品がその種子であっても品質表示に該当する。
平成20年(行ケ)第10027号 審決取消請求事件 平成20年6月30日 知的財産高等裁判所
[判旨]
(原判決より引用)
農作物の品種の表示はその農作物の品質を表示するものである以上,果実等の収穫物ではなく種子を指定商品として商標登録出願する場合でも,当該表示はその種子からいかなる収穫物が得られるかという意味において商品である種子の品質を表示するものといえるから、指定商品が収穫物ではなく種子であることをもって商標法3条1項3号の該当性を否定することはできない。
[解説]
本件は、種子・苗木の生産販売等を目的とする会社である原告が、指定商品を第31類「メロンの種子、メロンの苗」として商標「アンデス」を出願したところ、特許庁において拒絶査を受け、さらに拒絶査定不服審判において請求不成立の審決を受けたことから、その取消しを求めた審決取消訴訟である。
本件では、本件商標「アンデス」が商品「メロンの種子、メロンの苗」のいわゆる品質表示等に該当するか(商標法第3条第1項第3号該当性)が問題となったが、裁判所は、特許庁の判断を維持し、本件商標の登録を認めなかった。
商標法第3条第1項第3号により、使用される商品のいわゆる品質表示にあたるような商標はその登録が認められていない。これは、『取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人による独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによると解される』(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)からである。
特許庁においては、本件商標「アンデス」は、メロンの品種の一つを表示する語として普通に使用されているから、商標法第3条第1項第3号に該当すると判断され、登録が拒絶されたのである。
では、そもそも農作物の品種名は、商標登録することができないのだろうか???
上記特許庁の審決に対し、原告は、以下のように主張した。
【原告の主張のポイント】
• 当該品種に係る種苗の生産販売・品種表示の使用が特定の生産者の管理下にあれば、種苗等の品種の表示は特定の出所を表示し、自他商品識別機能を有する。
• 少なくとも、指定商品中「メロンの種子」については、交配方法のノウハウを知る原告のみが市場に供給し得るのであるから、自他商品識別機能を発揮している。
つまり、その品種を不特定人が生産販売、あるいは栽培することが可能か否かによって、商標としての機能の有無や登録性を判断するべきであるから、原告が独占的に生産販売する「メロンの種子」については、本件商標の登録が認められるべきだと主張した。
上記原告の主張に対し、裁判所は以下のとおりの判断を下した。
【裁判所の判断】
(ⅰ)「(前略)ある農作物がいかなる遺伝的形質を有するかは,その農作物の色,形,味等を決する重要な要素となるから,農作物の品種の表示はその農作物が有する品質を表すものである。(中略)そうすると,商標登録出願に係る商標が農作物の品種名を表す文字からなり,その指定商品が当該品種に関する農作物である場合には,当該商標は商品である農作物の品質を表示するものであるから,商標法3条1項3号に該当し,同条2項*が適用される場合を除いては商標登録を受けることができないというべきである。」
(ⅱ)「農作物の品種の表示はその農作物の品質を表示するものである以上,果実等の収穫物ではなく種子を指定商品として商標登録出願する場合でも,当該表示はその種子からいかなる収穫物が得られるかという意味において商品である種子の品質を表示するものといえるから,指定商品が収穫物ではなく種子であることをもって商標法3条1項3号の該当性を否定することはできない。」
(まとめ)
① 農作物の品種名については、直ちにそれが品質表示であるとして商標登録されないのか。
② 農作物そのものを商品とする場合と、その苗や種子の場合とで、登録性に違いはあるか。
本件訴訟には、この2つの要素が含まれています。
知財高裁は、農作物の品種名と商標登録の関係について、①原則として品種名はその農作物の品質表示に該当し、さらに、②その種子についても、農作物それ自体ではないという理由をもって品質表示に該当しないとはいえないと結論付けました。
以上を踏まえれば、農作物の品種名の表示は、本来的に商標登録の制度にはなじまないと言えるのかもしれません。
*商標法第3条第2項は、同条第1項各号に掲げる商標であっても、使用の結果、自他商品識別機能を有するに至ったと認められる場合に限り、例外的に商標登録を認める規定です。
弁理士 安田 麻衣子