米国特許侵害訴訟において故意侵害が認定されると、懲罰的賠償請求により損害賠償額が最大3倍にまで膨らむことがある。故意侵害の認定を避けるために、米国弁護士から非侵害の鑑定書を複数得ておくべきであるというアドバイスをよく聞く。予算に限りがある場合、鑑定書は本当に複数必要なのか?
結論としては、完全で信頼性の高い鑑定書が一つあれば、故意侵害の認定を避けるに足りると考えられる。この結論は、Seagate判決の前であっても同じであるが、Seagate判決後はなおのことそのように言える。
2007年にSeagate事件CAFC 大法廷判決が出される前は、故意の特許侵害を立証する基準は、被告が特許侵害を回避するために「相当な注意」を払わなかったことを立証することであった。Seagate判決は、この従前の基準を変更し、被告側に「客観的な無謀さ(objective recklessness)」があったことを立証する明確で説得力のある証拠を示すことを特許権者に求めることにより立証水準を厳格にした。特許権者は被告の実施行為が特許侵害を構成する蓋然性が客観的に高いにもかかわらず、被告がその実施行為をしたことを示す明確かつ確信のある証拠を示さなければならない。さらに、判決は、故意侵害の責任を免れるために弁護士の鑑定を得なければならないという積極的な義務はないことも明確にした。それを受けて鑑定書を入手しなかったことなどを、故意侵害の認定に使用できない旨、米国特許法が法改正されている(§298)。
以下、鑑定書が1つでも足りることを説明する。
裁判所は、鑑定書が3つあるということ「だけ」から、鑑定内容が妥当で客観的 なものであったと認定するのではない。裁判所は、鑑定書の中身を精査して弁護士が正しい分析のもとで客観的な結論を出したかどうかを判断する。
もし、同じ結論の鑑定書が3つあったからという、<ただそのことだけ>をもっ て、裁判所が結論を変えるようなことがあったとしたら、それは裁判所が正しい仕事をしていないということである。
裁判所が正しくないことをする(実質よりも形式を重視する )ことを前提にするのは適切ではない。裁判所が正しいことをする(鑑定書の「数」では なくて「中身」を精査する)という前提にもとづいて行動すべきである。
もし、限られた予算の中であれば、理路整然とした客観的でしっかりし た鑑定書を1つ得ることが勧められる。1つ目の鑑定書が社内弁護士によるものである場合は、2つ目の鑑定書を外部の弁護士から得ることが望ましい。しかし、特別な理由がないにもかかわらず、単に鑑定書の数だけ増やすことに意味はないと考えられる。もちろんよりリスクが小さくなるという面はあるが、予算は常に限られている。
また、複数の鑑定書の間で矛盾した分析があると、裁判の過程で説明に窮したり、一部の鑑定書だけを裁判所に提出するといったことにもつながりかねない。複数の鑑定書にはそのようなリスクもあることに留意すべきである。