「あらゆる一般化は間違っている。これも含めて」

All generalizations are false, including this one. (Mark Twain) http://bit.ly/14kY36b「あらゆる一般化は間違っている。これも含めて」とは、『トム・ソーヤーの冒険』の著者マーク・トウェインの名言である。「男は信用ならぬものだ」などと安易な一般化で人間や物事を理解したつもりになることを戒めたものであろう。「あらゆる一般化は間違っている」と一般化すること自体も、間違いであると自戒を込めたのはウィットに富んでいる。今日は、マーク・トウェインに敬意を払い、特許請求の範囲(特許の保護を求める範囲)の「一般化」の話をしよう。

欧州特許庁から欧州特許出願の拒絶理由として、特許請求の範囲に記載された請求項の補正が許可されないIntermediate Generalisation(中間的一般化)に該当し、新規事項の追加である(EPC123(2))との通知を受け取ることがある。Intermediate Generalisationとは欧州特許庁(EPO)の審査ガイドラインに記載されたもので、EPOの審査に特有の概念であると思う。

Intermediate Generalisationとは、明細書の実施の形態に複数の特徴の組み合わせが開示されている場合に、その複数の特徴の組み合わせから、ある特定の特徴だけを抽出して請求項を限定する補正のことである。そのような補正が許されるのは、複数の特徴の間に構造上および機能上の関係がない場合に限られるというのが、EPOの審査基準である(Guidelines for Examination H-V, 3.2.1)。密接不可分な複数の特徴の組み合わせから特定の特徴だけを抽出して請求項を補正することを許すと、明細書には開示されていなかった主題が特許されることになってしまうからである。

複数の特徴の組み合わせから特定の特徴だけを取り出して請求項に追加した場合、他の特徴は請求項からは省略される。省略された他の特徴が、課題を解決するために不可欠な構成である場合、その不可欠な他の特徴を欠いた請求項は、明細書に開示された内容を超えて一般化された主題について保護を要求するものとなる。EPOはそのような補正をunallowable  intermediate generalisationまたはundisclosed  intermediate generalisationとして禁止する。補正するならば、課題を解決するために不可欠な他の特徴とともに追加しなければならない。

一例として、EPO審決T166/04を紹介する。この事件では、マルチプロセッサシステムにおけるデータブロックのアクセスの順序付けのためのシリアライゼーションポイントについて機能的に記載した請求項に対して、キャッシュコヒーレンシーアーキテクチャの構成の一部として明細書に開示された特定の特徴を追加した補正が問題とされた。その追加された特定の特徴は、他の特徴と密接不可分に関連してキャッシュコヒーレンシーを達成するものであるから、その特定の特徴だけを他の特徴から切り離して請求項に追加する補正は、明細書の開示内容を超えるものであるから、許されないとされた。

このように密接不可分に関連し合って一定の目的を達成する複数の特徴の組み合わせから、特定の特徴を不可欠な他の特徴から分離し、請求項を限定するために用いることは、unallowable/undisclosed  intermediate generalisationとして禁止されるが、Intermediate Generalisation自体が禁止されているのではないことに留意されたい。ある特定の特徴が他の特徴と密接不可分に関連しておらず、他の特徴が課題解決のために必須でなく、その特定の特徴を分離して一般化に用いることが明細書の開示内容全体から合理的に理解できるものであるなら、そのようなIntermediate Generalisationは許される。

発明を開示する際、複数の特徴の組み合わせから特定の特徴を切り離して抽出することが無理なくできるように、他の特徴が必須ではなく、特定の特徴だけでも課題を解決できることを明確にしておくなど、明細書の記載の仕方には工夫が求められる。また、特定の特徴だけを抽出して補正する際は、それが許されるべきIntermediate Generalisationであることの主張立証をEPO審査基準に照らして丁寧に行うことが求められる。

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