委任省令要件違反?

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請求項に係る発明が明細書の【発明が解決しようとする課題】に記載された課題に該当しない場合であっても、特許法36条4項1号の委任省令要件に違反しない。

平成20年(行ケ)第10237号 審決取消請求事件 平成21年7月29日 知的財産高等裁判所
[判旨]
審決は、特許法36条4項1号に規定する委任省令要件について、「請求項1~9,11,13~14に係る発明は、段落0007~0009に記載された課題の何れにも該当しないものである。」とし、「本件の明細書は、請求項1~9,11,13~14に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載したものであるとは認められない。」と判断した。
特許法36条4項は、「発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と定め、同条同項1号において、「一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。特許法36条4項1号において、「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は、通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して、独占権を付与することになるならば、発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。
そのような、いわゆる実施可能要件を定めた特許法36条4項1号の下において、特許法施行規則24条の2が、(明細書には)「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきとしたのは、特許法が、いわゆる実施可能要件を設けた前記の趣旨の実効性を、実質的に確保するためであるということができる。そのような趣旨に照らすならば、特許法施行規則24条の2の規定した「技術上の意義を理解するために必要な事項」は、実施可能要件の有無を判断するに当たっての間接的な判断要素として活用されるよう解釈適用されるべきであって、実施可能要件と別個の独立した要件として、形式的に解釈適用されるべきではない。
審決の上記判断は誤りである。

[解説]
本事件の争点は、特許法36条4項1号に規定する委任省令要件について、「請求項に係る発明は、【発明が解決しようとする課題】の欄に記載された課題の何れにも該当しないものであれば、明細書はその請求項に係る発明について経済産業省令で定めるところにより記載したものであるとはいえないのか」である。
特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とし、新規な発明を公開した者にのみ、その代償として独占権たる特許権を付与する。当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に公開したといえない発明に対して特許権を付与することになれば、特許制度の趣旨に反する。
そこで、特許法36条4項は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明を公開させるために、「発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と定め、同条同項1号において、「一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。すなわち、特許法36条4項1号により実施可能要件が規定されている。
経済産業省令に当たる特許法施行規則24条の2は、実施可能要件を設けた趣旨の実効性を実質的に確保するために設けられたといえる。したがって、「特許法施行規則24条の2は実施可能要件と別個の独立した要件として形式的に解釈適用されるべきではない」との裁判所の判断は妥当であるといえる。
本判決は、特許法36条4項1号の経済産業省令を解釈した点で興味深い判決である。

弁理士 松本 武信

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