美味しいカルボナーラの作り方は特許になりますか?

paghetti, alla, Carbonara, by GianMaria Le Mura Chef Executive, on Flickrカルボナーラ (Carbonara) とは、「炭焼人 (Carbonara) が仕事の合間にパスタを作ったら、手に付いた炭の粉が落ちてこんな風になるのではないかという感じの黒コショウをからませたパスタ」(wikipedia)のことだそうで、carbonに由来するってことをこの歳になって知りました。

金沢医科大学発のベンチャーでは、セルロースを炭化させた、食べられる「純炭」を製造する研究があるそうです(樋口正人氏のブログ「炭を科学する」)。この純炭を黒こしょうの代わりにホントにパスタのカルボナーラソースに振りかけた、「純正」カルボナーラを東京で食することができる日も近いらしい(東京カルボナーラ推進協会)。ここにはいろいろな特許が絡んできそうだ。

そう思って、美味しいカルボナーラの作り方が特許になっていないか、ちょっと調べて見た。そう、カルボナーラは結構、作るのが難しい。卵黄がチーズが凝固してしまうとカルボナーラじゃあない。あのとろとろのソースはどうやって作ればよいのか。

あった、あった。「カルボナーラの作り方」という特許出願(特開2007-089403号公報)が1件。まさに「レシピ」の発明だ。出願人いわく、「本願発明においては、上記したように調理法が難しいカルボナーラを、お客さんの面前で確実に仕上げるため、土鍋を用いてソースを提供し、お客さんの面前でゆでられたパスタをチーズ製容器に入れてチーズとパスタとをよく和え、そのチーズと和えられたパスタを上記土鍋の中に入れ、ソースと混ぜてゆっくりなじませる構成(上記本願発明の要旨中、 (f)、(g) の構成)としたことに最大の特徴を有する。(中略)そのため、該土鍋を用いてソースと混ぜられた適度な一定の温度のパスタは、和えられたチーズがソースの余熱によってほどよく融けてよくなじんだものとなり、しかもその状態が長時間にわたって維持されることとなる。そのため、該構成によって初めて、調理法が難しいカルボナーラを、お客さんの面前で確実に仕上げることが可能となったものである。」(拒絶理由通知に対する意見書)

なるほど、客の目の前でパスタとチーズと卵黄をあつあつの土鍋に入れてと、来たか。この特許出願は、「調理工程の一部を客の食卓・面前において行うことは、様々な料理において適宜行われる周知の態様であり、そのような調理態様に応じて公知の調理器具の中から最適なものを選択するのは当業者が普通に行うことである。」として拒絶査定となっている。しかし、「美味しいパスタの作り方」のような、「レシピ」自体が特許の対象とはならないわけではないことがこの特許出願から理解できる。発明の効果がこの発明のように、「チーズや卵黄が凝固しない」といった客観的に評価できる内容であるなら、レシピは特許の対象となるだろう。「美味しいかどうか」は主観的なことなので、味覚や食感のようなものを、何らかの形で客観化できればよい。

一方、レトルト食品などの形で発売されるカルボナーラソースの製造方法のような、工業的な発明であれば、特許はもっと取得しやすい。現に次の2つの特許がある。特許2005-368035号「カルボナーラソースの製造方法」(日清フーズ株式会社)、特許4972058号「容器詰めカルボナーラソースの製造方法」(キユーピー株式会社)。工業製品である以上、原材料やその配分が特定され、製造方法も特定されるから、職人技の集大成である、料理の調理法(レシピ)とは性質が違う。工業製品(レトルト食品など)として、市場に流通するので、特許権の権利行使もやりやすい。

レストランで実施されるレシピは、特許を取得しても権利行使に手間がかかるし(レストランを一軒一軒訪ねて、厨房に入って行って「おたく、それうちの特許なんだけど」というわけにも行かないだろう)、秘伝の食材や調理手順が公開されることによる損失も大きい。レシピは、特許よりは、「営業秘密」として秘匿した方が現実的だろう(不正競争防止法2条4項)。ただし、レシピが営業秘密として保護されるには、有用性、非公知性、秘密管理性の3つの要件を満たす必要があり、レシピが秘密状態を脱すると保護されなくなるのが、特許とは違うので注意が必要である(『知的財産のビジネス・トラブルQ&A』p.90-92「料理のレシピ」参照)。

弁理士 青木武司

 

 

 

 

美味しいカルボナーラの作り方は特許になりますか?」への2件のフィードバック

    1. Aquila 投稿作成者

      ご覧いただきありがとうございます。純炭ファスティングの記事も興味深く拝見しました。ファスティングをやった後、貧血気味になったので、血管が拡張されたせいかなと思いました。

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