Apple対SamsungのiPad共同体意匠権侵害訴訟ードイツとオランダ

iPad_Jobs2011年8月6日Apple Inc.(米国) は、Samsung Germany(ドイツ)とSamsung(韓国)がApple社の共同体意匠権181607-0001(iPadの意匠権)を侵害したとして、ドイツのデュッセルドルフ地裁に仮差止請求を求めた。本訴訟では共同体意匠裁判所としての国際管轄権の範囲がドイツ国内に限られるか、EU全域に及ぶかが大きな問題となった。共同体意匠権はEU全体で一つの意匠権であるが、被告の一部にEU域外の会社(本訴訟ではサムスン(親会社)はEU域外)である場合、ドイツ地裁の判決の効力がEU全体に及ぶとは限らない。

本訴訟では、デュッセルドルフ地裁は、アップルのサムスンに対する仮差止請求を認容する判決を下した。2011年8月9日当初の仮処分命令では、Samsung GermanyおよびSamsung(韓国)に対するEU全域(オランダを除く(注1))に対する仮差止請求を認容していた(注2)が、法曹界で激しい批判にさらされた結果、8月16日に一時執行停止し、同年9月9日に、Samsung Germanyに対する仮差止請求はEU全域(オランダを除く)に対して有効であるのに対して、Samsung(韓国)に対する仮差止請求は、ドイツ国内でのみ有効である旨、判決を補正し、最終的な仮処分決定がなされた(注3)。判決の補正がなされた理由は、本判決の中で共同体意匠裁判所の管轄権の範囲の違いによるものであるとして以下のように説明されている。

被告Samsung Germanyに対する仮差止請求については、被告の住所のある加盟国ドイツのデュッセルドルフ地裁が共同体意匠裁判所として国際管轄権をもち(共同体意匠規則第82条(1))、その管轄権の範囲はEU全域に及ぶ(共同体意匠規則第83条(1))。

一方、被告Samsung(韓国)に対する仮差止請求については、被告の侵害行為地である加盟国ドイツのデュッセルドルフ地裁が共同体意匠裁判所として国際管轄権をもつが(共同体意匠規則第82条(5))、その管轄権の範囲は当該裁判所が所在している加盟国ドイツ国内に限られる(共同体意匠規則第83条(2))。

この判決を踏まえると、共同体意匠を権利行使する相手がEU域外の会社であった場合、EUの主要国で裁判を提起する必要がある。EUへの輸入の入り口となっているロッテルダム港を有するオランダにおいて仮差止請求が認められれば、その先のEUの他国への流通の首根っこを抑えることができるというメリットがある。その他、イギリス、ドイツやフランスなど主要な製品の市場で訴訟を提起することになろう。

(注1)オランダではApple Inc.は同一の共同体意匠権181607-0001についてSamsung Electronics Benelux(オランダ)、SAMSUNG ELECTRONICS LOGISTICS EUROPE(オランダ)、SAMSUNG ELECTRONICS OVERSEAS(オランダ)、Samsung South Korea(韓国)、Samsung Netherlands(オランダ)、およびSamsung(韓国)を被告として別の裁判を起こしていたため、オランダは管轄権の範囲から除かれた。

(注2)原告は、Samsung Germanyは、被告Samsung(韓国)のドイツにおける「事業所」とみなすべきであると主張していたようである。仮にそうであれば、被告Samsung(韓国)の事業所のある加盟国ドイツのデュッセルドルフ地裁が、被告Samsung(韓国)に対する仮差止請求に関する国際管轄権をもち(共同体意匠規則第82条(1))、その管轄権の範囲はEU全域に及ぶ(共同体意匠規則第83条(1))が、判決ではSamsung Germanyは、Samsung(韓国)とは独立した子会社であるから、Samsung(韓国)の「事業所」とは認められなかった。

(注3)補正前の仮処分決定(2011/8/9)についてはPreliminary injunction granted by German court: Apple blocks Samsung Galaxy Tab 10.1 in the entire European Union except for the Netherlandsに詳しい。仮処分決定の補正の経緯についてはTranslation of Düsseldorf Regional Court’s detailed ruling against Samsung Galaxy Tab 10.1に詳しい。

ブラッセルI規則および共同体意匠規則の国際管轄権の規定については別途詳しく解説したい(とりいそぎ、弁理士会の国際活動センターからのお知らせ「共同体意匠に関する訴訟の管轄権」ご参照ください)。

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